【ドルチェ&ガッバーナ】ドレスドアンドレスド 2023年秋冬コレクション – 自画像、鏡の無限への戦慄

ドルチェ&ガッバーナ

ドレスドアンドレスド(DRESSEDUNDRESSED)の2023年秋冬コレクションが、2023年3月18日(土)に発表されたビデオプレゼンテーションの音楽は、ダムタイプの音楽と音響を担当してきた山中透による

自己の二重化

ドレスドアンドレスド 2023年秋冬コレクション - 自画像、鏡の無限への戦慄|写真9

詩のひとひらを引用することから始めたい「そこで泣いているのは、だれ、ひとすじの風でないとしたら、こんな時間に/ほかにあるのは、いやはてのダイヤモンドだけ…… だれなの泣いているのは、/こんなにもわたしのそば、このわたしこそ泣きだしそうなのにドルチェ & ガッバーナ コピー/この手、わたしの顔に触れようと夢みながら、/ぼんやりと、何かふかい目的にしたがってでもいるのか、/この手は待っている、わたしの弱さから涙がひとしずく溶けて流れ出るのを」──ポールヴァレリー『若きパルク』(清水徹訳)の冒頭である

ドレスドアンドレスド 2023年秋冬コレクション - 自画像、鏡の無限への戦慄|写真7

ここで泣いているのは、ほかならぬ「わたし」だろうしかしその存在は、「わたし」の眼差しの下に二重化されている「わたし」の身体が「わたし」の意識から離れて、他者のごとく立ち現れる「わたし」はどうやら明確な輪郭を持たず、「だれ」と呼びかけられた「わたし」の手だけが現れて、その顔に触れる、輪郭をなぞることを試みる「わたし」が「わたし」を捉えるとき、そのイメージは断片的で曖昧であらざるをえないそこからかろうじて紡ぎだされるのが自画像──「Self-Portrait」とは、今季のドレスドアンドレスドのテーマである──にほかなるまいドルチェ ダウンジャケット コピー

ドレスドアンドレスド 2023年秋冬コレクション - 自画像、鏡の無限への戦慄|写真10

このように曖昧な輪郭をなぞり、諸断片のイメージを自分という存在へと編みあげてゆくのが、ドレスドアンドレスドにおけるテーラリングであったシングルブレストやダブルブレストで研ぎ澄まされた佇まいに仕立てたジャケットには、ややもすれば不確かさの底に落ちる自分という存在に確固たるフォルムを与えるかのようにして、ハリのあるウールギャバジンを用いるあるいは、すり減ったようなダメージを施したモールスキンは、執拗になぞろうとも静かに震えてやまないその輪郭を、繊細に具現化するもののようにすら思われよう

ドレスドアンドレスド 2023年秋冬コレクション - 自画像、鏡の無限への戦慄|写真2

ところで、自画像を紡ぎだすために用いる手立てのひとつが、自らを映しだす鏡であるしかし、ただ1枚の鏡では、自己の輪郭を描ききることは叶わない自らを囲繞する多数の鏡、それらが波のごとく返す諸断片のいわば結び目として、自画像が立ち現れるこうして鏡の無限反射によって織りなされるイメージは、だから、自己という主体が立ち現れる点で生成的であり、数多の鏡に映した結果得るほかない点では束縛的であるそれはコレクションにおいて、シャツのボタンホールを拡大したフロントスリット、そしてギャバジンのジャケットに見られる縫い閉じられたボタンホールの痕跡、これらの両極に反映されている

ドレスドアンドレスド 2023年秋冬コレクション - 自画像、鏡の無限への戦慄|写真12

いま一度、ヴァレリーを引こう──「わたしは自分のあとを追い、自分に答え、自分を反射し、自分に反響する、わたしは鏡の無限に戦慄する──わたしはガラスでできているのだ」(「ムッシューテスト航海日誌抄」(清水徹訳)より)鏡に映じる自らの像をまなざし、一方でそこに映された像が自らを見つめ返す自己の存在を描きだしてもなお、他者のごとく自画像が立ち現れる、この慄き鏡の無限反射の下で震えてやまない自己の輪郭が、今季のドレスドアンドレスドにおいては探られているように思われる